隷従への道
F.A.ハイエクの思想史上の位置付けはなかなか誤解されやすい。
社会主義、全体主義への明確な批判は有名な話であるが、レッセフェール(自由放任主義)に対しても批判的であったことはあまり知られていない。彼は無政府主義者ではなく、政府の有用性を認めている。放っておけばどこでも競争が成立するわけではなく、競争の基盤となる法的枠組みや個人や企業の活動では維持できないが社会的利益のある事業への政府の活動は必要だという認識だ。
また、彼は社会主義経済計算論争で国家の計画的な経済運営を徹底的に批判したが、計画そのものを全否定はしていない。彼が否定したのは、国家統制経済など競争を阻害する計画であって、金融政策など競争に資する計画まで否定するものではない。
この本は一般向けのパンフレットとして書かれたものだが、この内容、この分量を読むのはなかなか根気がいる。それゆえか、アメリカではリーダーズ・ダイジェストのダイジェスト版の発行により爆発的に有名になり、読みもしないのに扇動的な批評が出回り、様々な誤解されたイメージにより、ビッグヒットになった。
本書は扇動的なものでもないし、過激な内容でもない。しごく真面目な本である。しかし、パンフレットとしては難しすぎて、ビッグヒットの裏で、著者に対する多くの誤ったイメージを作り出すこととなった。
なお、彼が批判したのは、方法としての集産主義であり、設計主義である。社会主義の理想が薄れつつある今日であっても、集産主義や設計主義的な考え方は、手を変え形を変えて残っており、未だ本書の意義は色褪せていない。
The Road to Serfdom: The Definitive Edition (The Collected Works of F. a. Hayek)
- 作者: Friedrich A. Von Hayek,Bruce Caldwell
- 出版社/メーカー: Univ of Chicago Pr (T)
- 発売日: 2007/03/30
- メディア: ペーパーバック
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次に読むのであれば、
法と立法と自由 3 自由人の政治的秩序 ハイエク全集 1-10 新版